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それがなければ、わたしたちの生命にはなにも可能にはならない。わたしたちに生じるすべてのことは、それと混じり合い、その内部において生じなくてはならない。それ、つまり呼吸こそが、あらゆる高等生物の最初の活動、存在と一体であるといえる唯一の活動なのだ。わたしたちを辟易させない唯一の活動、活動そのものの他に目的をもたない唯一の運動である。わたしたちの生命は(第一の)息吹で始まり、(最後の)息吹で終わる。生きるとは、呼吸をし、自分自身の息吹に世界の原材料をすべて取り込むことにほかならない。

視覚もまた呼吸である。光を、そして世界の色彩を受け容れ、世界の美しさに貫かれるがままとなれるだけの力を得て、世界の一部分、そのほんのごく一部分のみを選択し、かたちを作り上げ、世界の連続体からかすめ取ってきたものをもとに生命活動を促すのである。

だが呼吸の原初的な属性、いっそう逆説的な属性はその非・実体性にこそある。呼吸は他から分離できるような対象ではなく、あくまで振動にすぎない。あらゆる事物が生命に開かれ、ほかの対象と混じり合うような揺れ動き、ほんの一瞬のあいだ、世界の原材料を活性化する振動だ。

わたしたちが生命と呼ぶのは、ほんの一部分の物質が世界から区別される際のその身振りのことであり、その区別には、生命が世界と混合するときに用いられる力と同じ力を伴う。息をするとは世界を作ること、世界に溶け込むこと、そしてその永続的な営為の中で、自分のかたちを再び描き出すことをいう。

世界を住居とする数知れない存在、この上ないほどに多様で比類なき事物、最も遠く隔たった時間と空間、両立などとうていできないような複数の現実同士など、いずれもが呼吸の無限のかたちから自身の統一性を引き出している。それらはみな、一つの世界へと互いに溶け合っている。あらゆる異なるものの上位にある統一性、存在するものと存在しないものの上位に位置する越えがたい統一性として、世界は呼吸のもとに、呼吸としてのみ存在する。

 

以下から引用。

植物の生の哲学 - 株式会社 勁草書房

II 葉の理論──世界の大気

 8 世界の息吹

植物の生の哲学: 混合の形而上学

植物の生の哲学: 混合の形而上学